大和市に骨粗鬆症検診という制度ができました。当院での骨粗鬆症についての考え方を紹介します。
まず骨粗鬆症になると何が困るのかを考えてみましょう。
左が正常です。荷重軸が身体の真ん中を通る。首、腰は中間位にあるから動かせます。特に疲れません。
右が骨粗鬆症で背骨が曲がった方です。身長低下、荷重軸が前方に移動するので首、腰に力を入れていないと立っていられない。疲れそうですね。
こうなると首、腰は伸展位(普段から反った状態)にあるためこれ以上、上は向けない。それではみなさんも体験してみましょう。
前かがみになるように腰を曲げてみましょう。30°(直角の1/3)おじぎをするイメージです。
この体制を保持して骨粗鬆症の人がどんな日常を送っているのかミニ体験をしてみます。
首を動かして上を向いてみましょう。通常なら顔面が天井と並行になるくらい上を向けますが、殆ど上をむけませんね。
普段の姿勢が力を入れて上を向いている状態なのです。だから肩こり、項部の痛みがでるのです。
では今度は両手を上げて、ばんざいをしてみましょう。普通なら耳に上腕が着くくらい上がるはずですが、上まで上がりませんね。
背中が丸まっているから肩甲骨が前に移動し後方に動かないからです。これが肩こりを助長し、更に高所の物干しざおに手が届かない等、生活に支障をきたすのです。
膝はどうなっていますか?曲げたほうがバランスがとれて楽でしょう。ずっとこの姿勢でいると膝も伸びなくなります。
もう少しこのまま我慢してミニ体験にお付き合いください。
息を大きく吸ってみてください。そう深呼吸です。吸えないですね。前屈しているために胸郭が膨らまないことと、お腹を圧迫しているために横隔膜が下がらないのです。
では息を吐いてみてください。空気があまり出ないですね。医学的には肺活量の低下と努力肺活量の低下です。
体への酸素の取り込みが悪くなり、あらゆる病気に悪影響を及ぼします。
では咳をしてみましょう。痰がからんだと想像してください。おおきな咳ができないでしょう。出せる空気の量が極端に低下しているからです。
痰が出せなくなり肺炎になりやすい高齢者の気持ちが理解できたでしょうか?辛そうでしょう。
お疲れ様です。最後までできましたか?腰が痛くて最後まで姿勢を維持できなかった方も多いのではないでしょうか?
背骨が曲がった方の腰痛はこんなに辛いんですよ。これで一日中過ごすのです。腰椎の前彎があるのは人だけです。これが破壊された状態が骨粗鬆症です。
レッサーパンダ、ゴリラが長時間2足起立を保持できないことが理解できるでしょう。
このような状態になると動けなくなる代表的な疾患は腰部脊柱管狭窄症です。この病気は腰を伸ばした状態が続くと下肢につったような痛みが出現し立位、歩行ができなくなります。
つまり背骨が曲がると、さらに腰を伸ばした状態でないと立位を保持できないので長時間の歩行ができなくなります。
次に困るのが頚椎症です。頚椎症に神経の症状を伴う方は上を向くと神経が圧迫され、疼痛が増強したり、脊髄損傷(専門的には中心型が多い)が悪化します。
膝にも悪影響を及ぼします。腰が延びないので、膝はいつも曲がった状態、屈曲パターンの姿勢を維持せざるを得ません。
大腿四頭筋の筋力も低下し、膝は伸びなくなり変形性膝関節症は悪化します。
骨粗鬆症検診に水を差すわけではありませんが、骨密度が高くても骨が潰れてくる人は多いのです。逆に骨密度が低いのに潰れてこない人も多いのです。そのことを強調するためにガイドラインには上図が掲載されています。一般的に骨粗鬆症の治療の適応は以下のように考えるのでしょうが、当院では整形外科的に骨粗鬆症の治療をしないと将来的に日常生活動作が制限を受けるだろうと予測される方に治療を進めています。
骨粗鬆症が推測されるとき
1)骨密度低下
2)骨質が悪いから
リスクから考える
1)胃切除後
2)卵巣切除後
3)乳がんのホルモン治療・・・診療依頼
4)リウマチ
5)喫煙
6)糖尿病
7)腎不全
8)ステロイド
最近ではポリファーマシー(薬をのみすぎる)の問題も指摘されています。総合的に考えて治療を選択します。一緒に考えましょう。